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深掘り東京湾のコウイカが釣れない年に何が起きているか — 県の資源評価票の読み方
2026 年秋、東京湾の岸からコウイカの釣果が聞こえてこない理由を、千葉県の資源評価票 (水準: 低位・動向: 減少) と神奈川県の貧酸素速報から読み解きます。寿命 1 年の魚の「分母」の考え方と、予測スコアが見ていないものについて。
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- 約 6 分
- 著者
- FishCast 編集部(監修: 倉田雄也)
- コウイカ
- スミイカ
- 東京湾
- 資源評価
- 貧酸素
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2026 年の秋、東京湾の岸からコウイカ (スミイカ) の釣果がほとんど聞こえてきません。船宿の釣果では 10 月に入って今季初の報告が出始めましたが、湾奥の護岸からの報告は各地の釣果情報を見てもまばらです。FishCast の答え合わせでも、東京湾のコウイカは「釣れた・釣れなかった」以前に、訪問の記録そのものが集まっていません。この記事では、その背景を県が公開している一次資料から読み解きます。
県の資源評価票には何が書いてあるか
都道府県の水産研究機関は、沿岸の重要な魚種について毎年「資源評価票」を公開しています。千葉県の令和 7 年度の評価票で、東京湾のコウイカは「水準: 低位、動向: 減少」と判定されています。2024 年の資源水準は最近 32 年間で低位、最近 5 年間の動向は減少傾向です。
| 項目 | 決め方 | コウイカ (東京湾) の判定 |
|---|---|---|
| 資源水準 | 原則として過去 20 年以上の評価指標値 (CPUE) を四分位で区切る | 低位 (最近 32 年間で低位) |
| 資源動向 | 最近 5 年間の評価指標の近似式で、年 5% 以上の増減があるか | 減少 |
| 評価指標 (CPUE) | 小型機船底びき網の操業日誌から集計した 1 網当たりの漁獲量 (kg/網)。標本漁船は年により 3〜12 隻 | — |
漁獲量で見ると、東京湾の主要漁協のコウイカ漁獲量は 1999 年以降増減を繰り返し、2017 年に 31t となった後は減少傾向が続き、2024 年には 5t を記録しました。7 年で 6 分の 1 です。ここで大事なのは、この評価が釣り人の感覚ではなく、漁業者の操業日誌から機械的に計算されている点です。「1 網曳いて何 kg 獲れたか」を年ごとに並べているので、釣り人の腕や投稿のばらつきとは無関係に資源の増減が出ます。
寿命 1 年の魚は、毎年「分母」がリセットされる
コウイカの寿命は約 1 年で、東京湾での産卵期は春です。産卵を終えた親は死に、夏にはほとんど漁獲が見られなくなります。つまり、秋に岸から釣れる新子の数は、その年の春に産卵した親の数と、夏の生き残りで決まります。そして春に産卵する親は、前の年の秋の新子です。
- 2025 年秋の新子が少ない → 2026 年春の親が少ない
- 2026 年春の親が少ない → 2026 年秋の新子の「分母」が小さい
- そこに夏の生き残り率が掛かる
資源評価票が「低位・減少」と言っているのは、この連鎖が何年か続いているという意味です。マダイやクロダイのように複数の年級群が混ざる魚なら、ある年の不漁を別の年級群が埋めてくれます。寿命 1 年のイカにはそれがありません。前の年が悪いと、翌年はスタート地点から少ないのです。1994 年から漁業者による産卵床の設置が続けられているのも、この「翌年の分母」を守るためだと考えられます。
2026 年の夏に重なった貧酸素
分母が小さい年に、夏の生き残り率を下げる要因が重なりました。神奈川県水産技術センターの「東京湾溶存酸素情報 2026 年度第 7 号」(2026 年 8 月 18 日) では、横須賀沖まで厚みのある貧酸素水塊 (溶存酸素 2.5ml/L 以下) が広く確認されています。貧酸素水塊は湾奥の底層で夏に発生し、南へ広がります。横須賀沖まで厚みを持って届いていた、というのがこの年の 8 月の観測結果です。
コウイカは底で暮らすイカです。日中は砂泥に潜り、夜に底付近で餌を探します。底層の酸素が薄くなると、表中層を泳ぐ魚より逃げ場が限られるため、影響を受けやすいと考えられます。湾奥の護岸、たとえば川崎や横浜のあたりほど貧酸素の中心に近く、秋に新子が岸に差してこない理由の一つになっていると見ています。ここは評価票に書かれた因果ではなく、生態と分布から考えた推測です。
水温のせいではなさそう
「今年は水温が高いから釣れない」という説明をよく見かけますが、東京湾内の船宿が公表している海水温を見る限り、2026 年 10 月上旬は前年の同じ時期とほぼ同じ水準でした。また、同じ時期に大阪湾や播磨灘ではコウイカの釣果が例年どおり出ています。水温や季節の進み方で説明できるなら他の内湾も同じように不調になるはずなので、今年の東京湾の不調は東京湾の資源そのものの事情と考えるのが自然です。
予測スコアが見ているもの、見ていないもの
ここは正直に書いておきます。FishCast の予測スコアは、潮汐・気圧・水温・天候・時間帯・地形・溶存酸素といった「その日その場所の条件」を点数にしています。資源がその年にどれだけいるかは見ていません。季節ごとの出現しやすさは乗数として入っていますが、それは平年の季節パターンであって、今年の資源量ではありません。
だから、条件が良い日に東京湾の釣り場でコウイカのスコアが高く出ることはあります。それは「もしイカがいれば釣りやすい日」という意味で、「イカがいる」という意味ではありません。資源が低位の年にはこの差が大きく開きます。スコアが高いのに釣れない、という答え合わせが続くときは、条件ではなく資源を疑ってください。
もっと深く釣り人の記録を資源の指標にできるか
県の評価票が使っている CPUE (努力 1 単位あたりの漁獲量) は、釣り人の記録からも作れます。釣行 1 回を努力の単位にして、「行った回数」を分母、「釣れた回数」を分子にすれば、釣り場ごと・魚種ごと・年ごとの釣れた率が出ます。FishCast の答え合わせはまさにこの形で、「行ったけど釣れなかった」を取っているのは分母を作るためです。
漁業者の操業日誌と違って、釣り人の記録には腕や時間のばらつき、釣れた日のほうが投稿されやすい偏りがあります。それでも、漁師が入らない岸際・浅場を毎日見ているのは釣り人です。記録が溜まれば、「去年の 10 月は釣れた率 6 割、今年は 2 割」のように、その釣り場の資源の薄さを釣り人の側から言えるようになります。いまは東京湾のコウイカは分母がゼロなので何も言えませんが、構造としては県の評価票と同じものを岸から作れる位置にいます。
今年、コウイカをやるなら
- 湾奥の護岸にこだわらず、船の釣果が立ち始めた湾の中ほどから湾口寄りに行く。資源が薄い年は、新子が差す範囲も狭くなります
- 釣り場のスコアは「イカがいれば釣りやすい日」の目安として使い、釣れなかった日も答え合わせに残す。来年の判断材料になります
- 同じ時期にアオリイカの新子も岸に差します。狙いを切り替えるのも現実的な選択です
コウイカ攻略ガイド — シャクらない。底をズル引いて止めるで、底を取ってステイする基本の釣り方を解説しています。
アオリイカ攻略ガイドは秋の新子シーズンの釣り方をまとめています。
まとめ
東京湾のコウイカが 2026 年に釣れないのは、腕や潮のせいではなく、県の評価で「低位・減少」と判定されるまで資源が減っていること、そして寿命 1 年ゆえに前年の不漁がそのまま今年の分母になることが主因です。夏の広い貧酸素がそこに重なりました。予測スコアは条件を読む道具であって、資源の量は読みません。釣れない年の答え合わせを残しておくことが、来年以降に資源の増減を釣り人の側から見るための一歩になります。
参考資料
- 千葉県「千葉県 沿岸重要水産資源 令和 7 年度資源評価 コウイカ (東京湾)」資源評価票 — 水準・動向の判定、CPUE の定義、主要漁協の漁獲量 (2017 年 31t → 2024 年 5t)、寿命・産卵期、産卵床設置の記述。https://www.pref.chiba.lg.jp/gyoshigen/sigenhyoka/documents/19-kouika.pdf
- 神奈川県水産技術センター「東京湾溶存酸素情報 2026 年度第 7 号」(2026 年 8 月 18 日) — 横須賀沖までの貧酸素水塊 (≦2.5ml/L) の分布。https://www.pref.kanagawa.jp/documents/25063/tb20260818.pdf
- 水温・他海域の釣果・船宿の初報については、東京湾内の船宿および各地の釣果情報に共通して見られる傾向として記述しており、個別の出典は引用していません
この記事の前に: コウイカ攻略ガイド — シャクらない。底をズル引いて止める(実践)
コウイカ釣りにおすすめのタックル
記事で紹介した釣りを始めるための定番アイテムです。 一式の詳しい解説はコウイカの釣り方ガイドへ。
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