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アオリイカは本当に色が見えない? 学術論文で検証するエギングの科学
アオリイカは本当に色が見えないのか? 実在する学術論文を検証し、単色型視覚・偏光受容・視覚の発達など、エギングのカラー選びに関わる科学的知見を経験則と区別して整理しました。
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- 約 5 分
- 著者
- FishCast 編集部
- アオリイカ
- エギング
- 生態
- 視覚
「アオリイカは色盲だから、エギの色は関係ない」――エギング界隈で繰り返し語られる説です。一方で「金テープが効いた」「夜はケイムラが強い」という実釣の声も絶えません。この一見矛盾する 2 つの話を、実在する学術研究に基づいて整理します。先に要点を言うと、『色そのものは基本的に判別できないが、明暗と偏光には敏感』というのが、現時点の研究から言える範囲です。
アオリイカは本当に「色盲」なのか?
色を見分けるには、異なる波長の光に反応する複数種類の視物質 (ロドプシン) を網膜が持っている必要があります。人間は 3 種類の錐体細胞でこれを実現していますが、イカ類の多くは網膜に 1 種類のロドプシンしか持たないことが分かっています。三重大学などの研究チームが 2026 年に日本水産学会誌で発表した論文では、アオリイカ (遺伝的にはアカイカ型・シロイカ型・クアイカ型という近縁 3 種に分かれることが分かっています) のいずれも単一のロドプシンしか持たず、光を最も強く吸収する波長 (最大吸収波長) は種ごとに 496nm・492nm・489nm とわずかに異なることが示されました。別の研究 (三重大学の修士論文, 2007 年) でも、分子系統解析からアオリイカの最大吸収波長は 494nm 前後と独立に推定されており、複数の研究がおおむね同じ結論に収束しています。
例外はいないのか? ホタルイカの場合
ただし「イカは全種が色盲」と言い切るのは正確ではありません。深海性のホタルイカ (Watasenia scintillans) は例外で、網膜が層状の構造を持ち、層ごとに異なる最大吸収波長 (470nm 付近と 500nm 付近) の視物質を持つことが 1994 年の研究で示されています。頭足類の中にも波長弁別の仕組みを持つ種は存在し、色覚の有無は種ごとの網膜構造次第だという点は押さえておきたいところです。
色は見えなくても、明暗と偏光には敏感?
頭足類の目は、規則正しく並んだ感桿・微絨毛という構造を持ち、これが光の振動方向 (偏光) を感知しやすい仕組みになっていると考えられています。偏光を実際に弁別できることを行動実験で示した最初の研究は 1960 年発表のタコを対象にしたもので、頭足類が偏光受容能力を持つことの重要な裏付けとなっています。これはアオリイカそのものを対象にした実験ではありませんが、頭足類に共通する目の構造から、アオリイカも偏光に敏感である可能性は高いと考えられます。
視覚は生まれてすぐ完成するわけではない
琉球大学などの研究チームが 2026 年に発表した論文では、アオリイカの目 (カメラ眼) は孵化後 2 週間ほどで急速に発達し、レンズの大きさや視細胞の密度がその後も変化し続けることが示されています。個体の成長段階によって見えている世界そのものが違う可能性がある、という実務的にも興味深い知見です。
では、エギのカラー選びにどう活かせる?
学術的に比較的手堅く言えるのは「色そのものより、明暗のコントラストや偏光の変化を手がかりにしている可能性が高い」という点です。これが正しいなら、エギ選びで重視すべきは表面のカラーそのものより「水中でどれだけ濃い/薄いシルエットとして映るか」「光をどう反射・偏光させるか」という下地の性質だと考えるのは筋が通っています。ただし、実際のエギのカラーローテーションが釣果に与える効果そのものを検証した論文は見つかっておらず、ここから先は多くのアングラーが積み重ねてきた経験則の領域です。科学的知見と現場の経験則を区別して知っておくことが、遠回りのようで一番の近道です。
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参考文献・出典
- 宮崎多恵子・大隅剛・笠岡祝丹・森祐平, 「アオリイカ 3 種におけるロドプシンの最大吸収波長」, 日本水産学会誌 92 巻 1 号, 2026 年, DOI: https://doi.org/10.2331/suisan.25-00020
- 牧野朗彦, 修士論文「イカの視覚に関する基礎的研究 - 沿岸性種および沖合性種の網膜構造、視精度、視物質に関する検討 -」, 三重大学大学院生物資源学研究科水族生理学教育研究分野, 2007 年
- Michinomae, M., Masuda, H., Seidou, M., Kito, Y., "Structural basis for wavelength discrimination in the banked retina of the firefly squid Watasenia scintillans", Journal of Experimental Biology 193(1), 1994 年, PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9317205/
- Moody, M.F., Parriss, J.R., "Discrimination of polarized light by octopus", Nature 186, 1960 年, https://www.nature.com/articles/186839a0
- Stubbs, A.L., Stubbs, C.W., "Spectral discrimination in color blind animals via chromatic aberration and pupil shape", PNAS 113(29), 2016 年, DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.1524578113 (反論: DOI: https://doi.org/10.1073/pnas.1612239113)
- Sugimoto, C., Lei, S., Ao, T., Sakurai, Y., Zhang, X., Ikeda, Y., "Camera-type eye specific visual ontogeny in squid (Sepioteuthis lessoniana)", Journal of Experimental Biology 229(8), 2026 年, DOI: https://doi.org/10.1242/jeb.250437
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